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ドイツのジャーマン・メタル(メロディック・スピード・メタル)に対するブラジルからの回答

今日の一曲-028

CARRY ON / ANGRA

メロ・スピ。この言葉が一番しっくりくるのはもちろんハロウィンなんですけども、アングラの事も忘れてはいけません。


もちろん彼ら登場以前にも以後にも、メロ・スピ界隈で素晴らしい作品を発表したグループは数多く存在していますが、このタイミングでこの完成度を表現できたのは、このバンドの強みであり価値だった、と思います。「だった」という過去形なのは、このデビューアルバムの出来栄えを残念ながら本人達も超える事はできなかった(今のところ)、という印象を僕が持っているからです。

アンドレ・マトス至宝の声

好き嫌いがハッキリ別れる独特の節回しでハイトーンを聴かせてくれるのは、アンドレ・マトス。ブラジルのメタル・バンド「ヴァイパー」のヴォーカリストとしてデビュー後、このアングラを結成し、この界隈ではそれなりに評判を呼びました。

 とにかくこの1stは隙のない完成度がウリで、僕は今でも愛聴しています。間違いなく名盤だと思うんですけど、どうにもブラジルという土地柄なのか、ワールド・ワイドの成功には繋がっていない印象があって、もったいないなぁと感じてしまいます。

 キー・マンであったマトスは、アングラとしては2枚のアルバムを発表した時点でこのグループを脱退してしまいます。その後、幾つかのバンドを作ったり出たり出戻ったりと落ち着きがない感じで、飽き性なのか理想が高過ぎるのか、実はかなり複雑な人なのかなあなんて考えたりもします。あ、勝手な妄想ですよ。ただ、僕は彼の節回しというかコブシ?にハマれたクチなので、安定したメンバーと出会って素晴らしい作品を発表し続けて欲しいなって思っていたんです。

音楽と思想

こうしたメロ・スピは、往々にしてクラシック・ミュージックに接近する事があります。この曲でもフィドルが大々的にアレンジに加わっていますし、間奏部分の展開などはオペラを観ているかのような印象さえあります(オペラをしっかり観劇した事がない僕がいうのもナンだけど)。こういうクラシック感や大仰な雰囲気、もっといえばお高い感じ、というのは、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの世界において「リスナーの思想」にまでタッチする、かなり大きな分岐点、というか踏み絵なんですよね。

 古くは、ディープ・パープルのリッチー・ブラックモアが、既にクラシカルな旋律を多用した様式美系のギター・プレイを聴かせてくれていましたし、ロックとの相性は決して悪くないと思うのですが、それでもロックやメタルという音楽が持つ攻撃的な側面が、時としてバッティングしてしまう事も、これはこれで確かにあります。

 音楽のジャンルそのものがプレイヤーやリスナーの思想を確定してしまうような事はないにしても、うっすら関連はする、というのが面倒な部分でもあるんですよ。

 この事は、ブラック・メタル界隈のグループを紹介する時にも、また触れる話題になると思いますから、軽く覚えておいてください。

最後に

いずれにせよ、アンドレ・マトスはアングラを去り、しかしバンドは今でも精力的に活動を続けています。そして去年、2019年に彼は急逝してしまいました。メタル界は惜しい声を亡くしました。R.I.P■■