【全アルバム解説】スラッシュ・メタル界の帝王「スレイヤー」の名曲・名盤一挙紹介
メンバーチェンジからの実験期
バンド結成10周年を迎え、記念盤的意味合いのライヴ盤も発表、これからの10年はどんな攻撃的音楽を聴かせてくれるのかと夢想していた頃、ショッキングなニュースが報じられました。
結成以来不動のメンバーであったスレイヤーでしたが、1992年ドラマーのデイヴ・ロンバードがバンドを脱退してしまったのです。
他のメンバーとの対立、最初の子供の誕生のためにツアーを離れたいというのが、脱退の理由でした。
デイヴのドラミングは、スレイヤーの楽曲を特徴づける重要な要素の一つでしたので、後任探しは難航するかに思われましたが、1980年代後半からバンド " フォビドゥン " で活躍していた " ポール・ボスタフ " が加入します。
そうして、スレイヤーのアルバム制作期間としては最長の4年を経て、新作を発表します。
Divine Intervention / SLAYER (1994)
- “Killing Fields" Lyrics:Araya Music:King Length:3:57
- “Sex. Murder. Art." Lyrics:Araya King Length:1:50
- “Fictional Reality" Lyrics:King King Length:3:38
- “Dittohead" Lyrics:King King Length:2:31
- “Divine Intervention" Lyrics:Araya, Jeff, King, Bostaph Music:Hanneman, King Length:5:33
- “Circle of Beliefs" Lyrics:King Music:King Length:4:30
- “SS-3" Lyrics:Hanneman Music:Hanneman, King Length:4:07
- “Serenity in Murder" Lyrics:Araya Music:Hanneman, King Length:2:36
- “213" Lyrics:Araya Music:Hanneman Length:4:52
- “Mind Control" Lyrics:Araya, King Music:Hanneman, King Length:3:04
Personnel
- Tom Araya – bass, vocals
- Kerry King – guitars
- Jeff Hanneman – guitars
- Paul Bostaph – drums
「★」は筆者オススメ・トラック
Slayer – Serenity In Murder
SLAYER – Dittohead (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
このアルバムを手にした時は実に複雑な想いを持っていました。
おそらく世界中のスレイヤー信者もそうだったんじゃないでしょうか。
あの鉄壁の布陣が崩れた後、ポール・ボスタフがいかにタフなプレイヤーだったとしても、果たしてその音楽はスレイヤー足り得るのかと、不安を抱えながら1stトラックを再生した事でしょう。
1曲目 " キリング・フィールド " は、スレイヤーの数ある楽曲の中でもかなり珍しいドラムのソロから始まる曲で、2小節のソロを経て、スロー・テンポ(ただしドラムは手数足数が詰め詰め)のリフ回しが続くのは、ポールのお披露目的な意味合いがあったのかな、と想像出来ます。
1994年といえば既にグランジ、オルタナティヴの潮流がミュージック・シーンを席巻し、暗く重たい楽曲で言葉を引きずるように奏でられていた時代ですが、そんな中においてスレイヤーはやはりスレイヤーのままでした。
ドラム・プレイに当然ながら違いはあり、例えばスピーディなドラムのフィル・インにおいて個性的な休符を織り交ぜる事で独自のグルーヴを生み出していたデイヴに対して、ポールは極めてストレ-トでタフなプレイ・スタイルを貫いており、だからこそこの強烈なバンドに加入してなお自分の個性を維持出来たのかも知れません。
アルバム2曲目以降は、しっかりテンポ・アップしたスレイヤー節を聴かせてくれます。
また特筆すべきは5曲目、タイトル曲の " ディヴァイン・インターヴェンション " で、スレイヤー史上唯一、メンバー全員が作詞に関わった珍しいケースです。
神について歌詞にする事の意味が日本よりも遥かにデリケートでリスキーな環境下において、メンバー全員の感性を採用しているという点は、ポールをメンバー全員が受け入れた証のようにも感じられます。
本作で初めてBillboard 200のトップ10入りを果たし、全英アルバムチャートでは15位に到達、収録曲“セレニティ・イン・マーダー”は全英シングルチャートで50位を記録しました。
Diabolus in Musica / SLAYER (1998)
All music is composed by Jeff Hanneman, except “In the Name of God", by Kerry King.
- “Bitter Peace" Lyrics:Hanneman Length:4:32
- “Death’s Head" Lyrics:Hanneman Length:3:34
- “Stain of Mind" Lyrics:King Length:3:24
- “Overt Enemy" Lyrics:Hanneman Length:4:41
- “Perversions of Pain" Lyrics:King Length:3:33
- “Love to Hate" Lyrics:Hanneman, King Length:3:07
- “Desire" Lyrics:Araya Length:4:19
- “In the Name of God" Lyrics:King Length:3:40
- “Scrum" Lyrics:King Length:2:16
- “Screaming from the Sky" Lyrics:Hanneman, Araya, King Length:3:12
- “Point" Lyrics:King Length:4:11
Personnel
- Tom Araya – bass, vocals
- Kerry King – guitars
- Jeff Hanneman – guitars
- Paul Bostaph – drums
「★」は筆者オススメ・トラック
1998年発表のこの8thアルバムは、ある意味一番の問題作と言えるかもしれません。
カヴァーアルバム " アンディスピューテッド・アティテュード " 発表後、なんとポールが脱退してしまい新ドラマーとして元テスタメントのジョン・デッティを加入させるも、すぐにポールが復帰します(なんと迷惑なw)。
そうした事件が影響したのかはわかりませんが、スレイヤーが遂に時代の流れに歩み寄ったと言えるのが本作 " 悪魔の鎮魂歌(レクイエム) – Diabolus in Musica " でしょう。
バンド初のダウン・チューニング(C#)やエフェクティヴなヴォーカル、つぶやくようなローテンションの語りなど、それまでのスレイヤーからすればかなり挑戦的かつ実験的な内容でした。
「スレイヤーが遂にNuメタル化した」「スレイヤーがグルーヴ・メタルをやりだした」という声が沸き起ったワケです。
アルバム・ジャケットには初めてあのロゴ以外のSLAYER表記が成された事もファンを動揺させまくりました。
実際、3曲目 ” ステイン・オブ・マインド ” や、6曲目 ” ラヴ・トゥ・ヘイト ” ではAメロから明らかにリズムがハネており度肝を抜かれますし(スレイヤーがヤってるからですが)、7曲目 ” デザイア ” のAメロではNuメタル然とした語りのような抑えたヴォーカルを聴く事となり、これもまた目玉が飛び出てしまいます。
これまでのトムが使ってこなかった歌唱法が取り入れられているわけですが、これをネガティヴに受け止めるのか否かは、人それぞれでしょう。
当時の「時代の空気」というものを知らなければ、フツーにカッケーじゃんと思えるかもしれませんね。
批評家からネガティヴなレビューを受けたにも関わらず、Billboard 200では31位に達し、販売初週に46,000枚以上を売り上げました(2009年までに、米国で306,000部以上を販売!)。
God Hates Us All / SLAYER (2001)
- “Darkness of Christ" Lyrics:King Music:Hanneman Length:1:30
- “Disciple" Lyrics:King Music:Hanneman Length:3:35 ★
- “God Send Death" Lyrics:Hanneman, Araya Music:Hanneman Length:3:45
- “New Faith" Lyrics:King Music:King Length:3:05
- “Cast Down" Lyrics:King Music:King Length:3:26
- “Threshold" Lyrics:King Music:Hanneman Length:2:29
- “Exile" Lyrics:King Music:King Length:3:55
- “Seven Faces" Lyrics:King Music:King Length:3:41
- “Bloodline" Lyrics:Hanneman, Araya Music:Hanneman, King Length:3:36 ★
- “Deviance" Lyrics:Hanneman, Araya Music:Hanneman Length:3:08
- “War Zone" Lyrics:King Music:King Length:2:45
- “Here Comes the Pain" Lyrics:King Music:King Length:4:32
- “Payback" Lyrics:King Music:King Length:3:03 ★
Personnel
- Tom Araya – bass, vocals
- Kerry King – guitars
- Jeff Hanneman – guitars
- Paul Bostaph – drums
「★」は筆者オススメ・トラック
Slayer – Bloodline (Official Music Video)
さて、時代としては遅ればせながら、というタイミングでモダン化に突入したスレイヤーが次に発表したのが、この9thアルバムです。
前作で色々の意味でインパクトを与えた彼等は、より自分たちのスラッシュを進化させつつ、スレイヤーの形を少しずつですが時代と調和させているように感じられました。
楽曲面では、前作で大胆に取り入れたNuメタル的なラップ調の歌唱も引き続き活用しながら、バンドとしては初めての7弦ギターでのプレイを採用してもいます( ” Warzone ” や ” Here Comes the Pain ” )。
これは、20周年を前にしてなお、自分たちのスタイルに拘りながらも常に前進しようとするタフな精神の現れだったのではないでしょうか。
盟友リック・ルービンはエグゼグティブ・プロデューサーという立場に退き、当時新進気鋭だった ” マット・ハイド ” をメインのプロデューサに迎えたのも、3rd以来見られるスレイヤー流の新作に対する意気込みだった事でしょう。
マット・ハイドとの相性を確かめるべく、まずは一曲 " ブラッド・ライン " をレコーディングし、映画のサントラ(” Draculra 2000 ”)に提供しますが、この成果に満足したバンドは正式に次の新作のパートナーとして彼を選んだのでした(その後同曲は ” ゴッド・ヘイツ・アス・オール ” に収録)。
アルバム発売初週で約51,000枚の売上を記録、Billboard 200では最高28位に到達しています。
またカナダのチャートでは9位、2006年時点でトータル304,000枚の販売を記録、また収録曲の ” Disciple ” はスレイヤー初のグラミー賞(ベストメタルパフォーマンス)ノミネートが成されています。
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