【全アルバム解説】エクストリーム・ミュージック界の重鎮「ナパーム・デス」の名曲・名盤一挙紹介
ナパーム・デス、というバンドをご存じでしょうか。
賢明なるHR/HMリスナー諸氏の皆様なら、一度は名前を聴いた事があるかも知れません。
トリビア的な話題として「世界最短の楽曲を持つバンド」というイロモノ的扱いで、このバンド名を知った方も少なくないでしょうね。
しかしこのグループは、現在のエクストリーム・ミュージック構築に大きな影響力を持ち、またシーンの確立に大いに貢献した超重要バンドなんですよね。
激しいのはちょっと……、と敬遠されてこられた方も少なくないかとは思いますので、彼等の事を紹介したうえで、このバンドをきっかけにどんな風にシーンが影響を受け変化してきたのか、その歴史も振り返ってみたいと思います。
ナパーム・デスってどんなバンド?
略歴
- 1981年に英国バーミンガムで結成、当時は政治的なメッセージ性の強い歌詞を含むパンク・ロックとしてスタートした
- 1987年のフルレンス・アルバムを発表する迄に8本ものデモ・テープを立て続けに発表していたが、メンバーは流動的であった
- 1stアルバムで、グラインド・コアというジャンルを明確に確立し、その後のエクストリーム・ミュージックの発展、ジャンル構築に大きく貢献した
- 一時期はデス・メタル化、グルーヴ・メタル化するなど様々な試みを経て、現在はジャンルで語られる事よりも「ナパーム・デスはナパーム・デスというジャンルである」という認識が広まっている
- 初期メンバーのドラマー、ミック・ハリスのプレイによって、それまで存在していたもののエクストリーム・ミュージックにおいて主流ではなかった「ブラスト・ビート」が、広く使用されるきっかけとなった
- ナパーム・デスを脱退後に各方面で活躍したミュージシャンが多いのも特徴で、リー・ドリアン(CATHEDRAL、With the Dead)やビル・ステイア(CARCASS、FIREBIRD)が在籍していた事は有名
ナパーム・デスの全スタジオ・アルバムと名曲を全力紹介
ナパーム・デスは結成1981年から現在2021年迄、活動休止という時期がありません。
紆余曲折ありながらも30年間ずっと走りっぱなしです。
しかしメンバー・チェンジが多いのもこのバンドの特性の一つでして、様々なミュージシャンが在籍していた事でも知られています。
彼らの音楽的変遷を振り返ってみましょう。
最初期:パンクの時代
バンドの成り立ちは1981年ですが、この時はグラインド・コアの始祖として認知される彼らのイメージとはややかけ離れた音楽を作っていました。
どちらかというと、ハードコア・パンクよりの音楽性で、ところどころにスラッシュめいたリフも顔を覗かせつつ、基本は「ノイジーでスピーディーなパンク」という印象でしょうか。
この頃のメンバーは流動的ではあったようですが、結成最初期のメンバーに、ニコラス・バレン(Bs.)、続いて後にブラスト・ビートで名を馳せるミック・ハリス(Drs.)が加入、後にジャスティン・ブロードリック(Gt.)が参加し、このラインナップでデビューアルバムのA面を録音する事となります。
オーバー・ドライヴで歪みまくったベースの音色やダウンチューニング、曲構成などの面では、後のグラインド・コア確立に繋がる独特の「不穏な雰囲気」が1985年時点で既に感じられますし、だんだんと「あのナパーム・デス」に移り変わっていく様が、よくわかります。
骨組みはアナーキズムを軸とした「クラスト・コア」と呼ばれるジャンル音楽で、この時点での最も極端な音楽の一つでした。
Hatred Surge [Demo] / NAPALM DEATH (1985)
NAPALM DEATH – Hatred Surge [Demo 1985]
From Enslavement to Obliteration [Demo] / NAPALM DEATH (1986)
Napalm Death (UK) – From Enslavement to Obliteration (Demo) 1986
グラインドコア黎明期
1987年、彼らは遂に歴史的重要アルバムとも言える、ナパーム・デスのデビューアルバムを遂に発表します。
今なおその作風を称えるリスナーが多い名盤「Scum(スカム)」です。
Scum / NAPALM DEATH (1987)
Side A
- “Multinational Corporations“ Length:1:06
- “Instinct of Survival“ Length:2:26
- “The Kill“ Length:0:23
- “Scum“ Length:2:38
- “Caught… in a Dream“ Length:1:47
- “Polluted Minds“ Length:0:58
- “Sacrificed“ Length:1:06
- “Siege of Power“ Length:3:59
- “Control“ Length:1:23
- “Born on Your Knees“ Length:1:48
- “Human Garbage“ Length:1:32
- “You Suffer“ Length:0:01
Side B
- “Life?“ Length:0:43
- “Prison Without Walls“ Length:0:38
- “Point of No Return“ Length:0:35
- “Negative Approach“ Length:0:32
- “Success?“ Length:1:09
- “Deceiver“ Length:0:29
- “C.S.“ Length:1:14
- “Parasites“ Length:0:23
- “Pseudo Youth“ Length:0:42
- “Divine Death“ Length:1:21
- “As the Machine Rolls On“ Length:0:42
- “Common Enemy“ Length:0:16
- “Moral Crusade“ Length:1:32
- “Stigmatized“ Length:1:03
- “M.A.D.“ Length:1:34
- “Dragnet“ Length:1:01
Personnel
- Side A
- Nicholas Bullen – vocals, bass
- Justin Broadrick – guitar, vocals (“Polluted Minds")
- Mick Harris – drums
- Side B
- Lee Dorrian – vocals
- Jim Whitely – bass
- Bill Steer – guitar
- Mick Harris – drums, vocals
「★」は筆者オススメ・トラック
Scum / NAPALM DEATH
まず、この曲数どやさ。
ヴァイナル盤時代であるにも関わらず、圧巻の26曲収録です。
このアルバムはやや変則的でして、A面でB面で収録メンバーの大半が異なっており、つまり「それぞれで1枚分の楽曲数」という考え方が出来るわけですが、殆どの曲が1分台ですし1分未満の曲もザラに収録されていますね。
この究極にまで極端さを追求し、「アンチ・ミュージック」というある種アートの発想に近い方法論で、「グラインド・コア」というジャンルを発明、世界中のメタル・コミュニティを驚愕させました。
また、社会への痛烈なメッセージを含んだ内容の歌詞も大きな特徴ですが、「どう聴いてもそんな言葉を発していない」というのもまたお約束の一つです。
「言いたい事は歌詞カードに書いておいた、曲では好きに叫ばせてもらうけどな」というスタンス。
またB面のメンバーには、後のエクストリーム・ミュージック界隈で頭角を現す、リー・ドリアン(Vo.)、ビル・ステイア(Gt.)が含まれており、「エクストーム・ミュージックの歴史が正にここから始まった」と言えるでしょう。
また特筆すべきは、メンバー本人達が「日本のS.O.BやGAUZE等にも触発されていた」と語っている事です。
※ちなみに、この印象的なアルバム・ジャケットをデザインしたのは、カーカスのヴォーカリスト、ジェフ・ウォーカーです
NAPALM DEATH – The Scum Story [Official Full Documentary]
From Enslavement To Obliteration / NAPALM DEATH (1988)
Side A
- “Evolved as One“ Length:Length:3:13
- “It’s a M.A.N.S World!“ Length:0:54
- “Lucid Fairytale“ Length:1:02
- “Private Death“ Length:0:35
- “Impressions“ Length:0:35
- “Unchallenged Hate“ Length:2:07
- “Uncertainty Blurs the Vision“ Length:0:40
- “Cock-Rock Alienation“ Length:1:20
- “Retreat to Nowhere“ Length:0:30
- “Think for a Minute“ Length:1:42
- “Display to Me…“ Length:2:43
Side B
- “From Enslavement to Obliteration“ Length:1:35
- “Blind to the Truth“ Length:0:21
- “Social Sterility“ Length:1:03
- “Emotional Suffocation“ Length:1:06
- “Practice What You Preach“ Length:1:23
- “Inconceivable?“ Length:1:06
- “Worlds Apart“ Length:1:24
- “Obstinate Direction“ Length:1:01
- “Mentally Murdered“ Length:2:13
- “Sometimes“ Length:1:06
- “Make Way!“ Length:1:36
Personnel
- Lee Dorrian – lead vocals
- Bill Steer – guitar
- Shane Embury – bass
- Mick Harris – drums, backing vocals
「★」は筆者オススメ・トラック
From Enslavement to Obliteration / NAPALM DEATH
Mentally Murdered / NAPALM DEATH
1stのB面メンバーからベース・プレイヤーだけが入れ替わり、改めて制作されたフルレンス・アルバムがこの2nd。
前作「Scum」のツアー後に加入したベーシストが、今なおナパーム・デスのメンバーとして活動を続ける重鎮、シェーン・エンバリー、その人です。
そして1stアルバムで、その苛烈なスピードを極端な低音で矢継ぎ早に繰り出す作風を編み出した彼らですが、2ndでは「極端に遅く重たい」、という方向性に早くも着手します。
この方法論は、本作でバンドを離れたリー・ドリアン(Vo.)が脱退後に結成したバンド「カテドラル」の音楽性に繋がっていく事になります。
またビル・ステイア(Gt.)は、自身のバンドである「カーカス」の活動と並行して本作品をレコーディングしたそうですが、このアルバムのツアーを最後に「カーカス」に専念する為、脱退することになります。
Napalm Death – Live in Tokyo 1989 (Official Full Live Show Audio)
1989年には早々に初来日を果たし編成はリー・ドリアン(Vo.)、ビル・スティアー(Gt.)、シェーン・エンバリー(Bs.)、ミック・ハリス(Drs.)の4人でした。
Napalm Death – BBC2 Arena Documentary (1989)
Harmony Corruption / NAPALM DEATH (1990)
- “Vision Conquest“ ★ Lyrics:S.Embury Music:S.Embury Length:2:42
- “If the Truth Be Known“ Lyrics:S.Embury, M.Greenway Music:S.Embury Length:4:12
- “Inner Incineration“ Lyrics:S.Embury Music:J.Pintado Length:2:57
- “Malicious Intent“ Lyrics:S.Embury Music:S.Embury Length:3:26
- “Unfit Earth“ Lyrics:M.Greenway Music:M.Harris Length:5:03
- “Circle of Hypocrisy“ Lyrics:M.Greenway Music:M.Harris Length:3:15
- “The Chains that Bind Us“ Lyrics:S.Embury, M.M.Greenway Music:M.Harris Length:4:08
- “Mind Snare“ Lyrics:M.Greenway Music:Mitch Harris Length:3:42
- “Extremity Retained“ Lyrics:M.Greenway Music:M.Harris Length:2:01
- “Suffer the Children“ Lyrics:M.Greenway Music:M.Harris Length:4:21
Personnel
- Mark “Barney" Greenway – vocals, lyrics (2, 5–11)
- Jesse Pintado – guitar, music (3)
- Mitch Harris – guitar, music (8)
- Shane Embury – bass, songwriting (1, 2, 4), lyrics (3, 7)
- Mick Harris – drums, music (5–7, 9–11)
Additional musicians
- Glen Benton – backing vocals (5)
- John Tardy – backing vocals (5)
「★」は筆者オススメ・トラック
Suffer the Children / NAPALM DEATH
さー続々重要人物が集まってきますよ。
リーとビルの脱退を受けて、バンドは二人の猛者を加入させます。
超親日家であり、元「ベネディクション」のヴォーカリストだったマーク “バーニー" グリーンウェイ(Vo.)と、元テロライザーの、ジェシー・ピンタード(Gt.)です。
彼鰓はこの布陣で、所属レーベル「イヤー・エイク(耳痛w)」が主催したグラインドクラッシャー・ツアーに、レーベル・メイトであるバンド「カーカス」「ボルト・スロワー」「モービッド・エンジェル」らと共に参加しました(今聴くととんでもなく豪華なラインナップですね!)。
そしてこのツアー後に、バンド初・二人目のギタリストとして、後々長年のバンド・メイトとなるミッチ・ハリス(Gt.)が遂に加入しました。
このアルバムを期に、バンドは音楽的に大きな変革を迎えます。
ゴリゴリのグラインド・コアから、グラインド・コアとデス・メタルの中間、くらいの感じ。
こう書くとどっちつかずの中途半端な印象を持たれるかもしれませんが、そうではありません。
この一件ハンパな状態に陥りそうな配分を絶妙な成分比で構成し、結果として「ナパーム・デスらしさ」を作り上げてしまったわけです。
これ言葉でいうと簡単ですが、ものすごい事なんですよ。
ともすれば個性を獲得するのが難しい当時のエクストリーム・ミュージックにおいて、誰が聴いてもナパーム・デスだと判る楽曲に到達できたのは(あ、エクストリーム・サウンドのリスナーの内で、っていう制限付きね)、奇跡的と呼んで差し支えないでしょう。
全体としてはブラスト・ビートの頻度が格段に落ち、リフが幾分メタリックになり、ヴォーカルが絶叫の連続から、辛うじてとは言え歌詞が聞き取れるようになりました。
そしてこの変化は、リスナーに大いに受け入れられ、大成功だったと言えるでしょう。
しかし創始メンバーの一人であったミッチ・ハリスが、1991年発表のマキシ・シングル「マス・アピール・マッドネス」参加後に、音楽性の相違を理由に脱退してしまいます。
この時点で、オリジナル・メンバーは一人も在籍していない恰好となりました。
Mass Appeal Madness / NAPAM DEATH (1991)
Mass Appeal Madness / Napalm Death
Utopia Banished / NAPALM DEATH (1992)
- “Discordance“ Length:1:26
- “I Abstain“ ★ Lyrics:M.Greenway Music:J.Pintado Length:3:30
- “Dementia Access“ Lyrics:S.Embury Music:M.Harris Length:2:27
- “Christening of the Blind“ Lyrics:S.Embury Music:S.Embury Length:3:21
- “The World Keeps Turning“ ★ Lyrics:M.Greenway Music:J.Pintado Length:2:55
- “Idiosyncratic“ Lyrics:M.Greenway Music:S.Embury, J.Pintado Length:2:35
- “Aryanisms“ Lyrics:M.Greenway Music:S.Embury, M.Harris Length:3:08
- “Cause and Effect (Part II)“ Lyrics:M.Greenway Music:J.Pintado Length:2:07
- “Judicial Slime“ Lyrics:S.Embury Music:S.Embury Length:2:36
- “Distorting the Medium“ Lyrics:M.Greenway Music:J.Pintado Length:1:58
- “Got Time to Kill“ Lyrics:M.Greenway Music:S.Embury Length:2:28
- “Upward and Uninterested“ Lyrics:M.Greenway Music:J.Pintado, M.Harris Length:2:07
- “Exile“ Lyrics:S.Embury Music:M.Harris Length:2:00
- “Awake (To a Life of Misery)“ Lyrics:S.Embury Music:M.Harris Length:2:05
- “Contemptuous“ Lyrics:S.Embury Music:S.Embury, M.Harris, J.Pintado Length:4:21
Personnel
- Mark “Barney" Greenway – vocals
- Mitch Harris – guitar, vocals
- Jesse Pintado – guitar
- Shane Embury – bass
- Danny Herrera – drums
「★」は筆者オススメ・トラック
I Abstain / Napalm Death
The World Keeps Turning / Napalm Death
そしてジェシー・ピンタードの友人でもあったダニー・ヘレーラが新ドラマーとして加入し、その後現在に至るまでナパーム・デスのリズムをシェーンと共に支える事となります。
ダニーのプレイは、ミックのハチャメチャな突進力はないものの、より正確なビートと粒立ちに加え、大きなウネリを生むダイナミクスをバンドに持ち込み、バンド・サウンドをメジャー・クラスのクオリティに引き上げたと言えるでしょう(実際、ドラムがナニをやっているのか非常に判り易くなりました)。
バンドはプロデューサにコリン・リチャードソンを迎え、「ユートピア・バニッシュド」を1992年に発表します。
このアルバムでは、原点回帰のコンセプトが施され、つまり再びグラインド・コアへの接近を果たします。
このまま、グラインド・コアのオリジンとして快進撃を始めたと言いたいところですがそうではなく、これ以降ナパーム・デスは時代の要求に急接近し、尚且つその状態・期間は結構続く事になります。
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