【全アルバム解説】パンテラが90’に革命を起こした名曲・名盤一挙紹介
1990年代メタルの幕開け、グルーヴ・メタルの時代
メガデスの一件はありつつも、バンドはより結束を固め新たなビジネス・フィールドを獲得すべく動き出します。
バンドがウォルダー・オブライエンとのマネジメント契約を成立させたのは1989年の事で、解散する2003年までこの関係は続きます。
様々なレコード・レーベルにアプローチ、しかし断られ続ける中遂に「Atco Records」との契約を勝ち取り、テリー・デイトのプロデュースの元で、5thが制作されます。
テリー・デイトは同時期にオーバーキルの4th「ザ・イヤーズ・オブ・ディケイ」をプロデュースした直後で、彼がバンドに与えたアイデアは、作品の方向性決定に大きく貢献したようです。
1990
COWBOYS FROM HELL / PANTERA
カウボーイズ・フロム・ヘル
All tracks are written by Pantera.
- “Cowboys from Hell“★ Length:4:06
- “Primal Concrete Sledge“ Length:2:13
- “Psycho Holiday“★ Length:5:19
- “Heresy“ Length:4:47
- “Cemetery Gates“★ Length:7:03
- “Domination“★ Length:5:04
- “Shattered“ Length:3:22
- “Clash with Reality“ Length:5:16
- “Medicine Man“ Length:5:15
- “Message in Blood“ Length:5:14
- “The Sleep“ Length:5:47
- “The Art of Shredding“★ Length:4:18
- Personnel
- Phil Anselmo – vocals
- Diamond Darrell – guitars
- Rex Brown – bass guitar, acoustic guitar and piano (track 5)
- Vinnie Paul – drums
「★」は筆者オススメ・トラック
この頃になって毛を立てるのをやめます(w)が、フィルはまだ長髪ですね。
1990年07月24日、遂にAtco Recordsから5th「カウボーイズ・フロム・ヘル」が発表されます。
4thまで聴かれたサウンドは大きく様変わりし、よりヘヴィに、よりダークなイメージとなっています。
ダレルの書いたリフは、スピードを殺してまでも重たさを重視し、リズム(休符の入れ方がトリッキー)によって構築されるものが、圧倒的に増えました。
更には、「05.」で聴かれるような抒情的なギター・ソロの魅力も追加され、ダレルの無双が始まります。
ここが所謂「グルーヴ・メタル」の出発点。
タイトル曲のインパクトはその後のメタル界に大きく影響を及ぼす事になりますが、最も重要な曲は7分超に及ぶ大作パワー・バラード「05.」であり、パンテラが単なるヘヴィさ一辺倒のバンドになったのではなく、幅広い音楽性を内包している事と、フィルがエモーショナルな歌唱も可能である事を裏付けています。
ビルボード・ミュージック・チャート「トップ・ヒート・シーカーズ」で27位に到達、米国ではゴールド・ディスク(50万枚)、プラチナ・ディスク(100万枚)を次々と獲得し、各国でも高い評価を受けました。
このアルバムでは、フィルのパフォーマンスにまだギリギリ、ハイトーンを駆使した歌唱が聴かれますが、続く6枚目でそのスタイルはほぼ完全になくなります。
パンテラでさえ、この時点ではメタルのヴォーカルに関する既成概念を残さざるを得なかったという事でしょうか。
それ程までに、へヴィ・メタルというジャンル音楽のフォーマットというのは、ある種完成し切っていたのかも知れません。
しかし、ここから怒涛のパンテラ快進撃が始まります(ゴクリ…)。
- PRESISTENCE OF TIME / ANTHRAX
- ACT III / DEATH ANGEL
- CRACKED BRAIN / DESTRUCTION
- IMPACT IS IMMINENT / EXODUS
- COMA OF SOULS / KREATOR
- RUST IN PEACE / MEGADETH
- COWBOYS FROM HELL / PANTERA
- SEASONS IN THE ABYSS / SLAYER
- BETTER OFF DEAD / SODOM
- SOULS OF BLACK / TESTAMENT
- THE GREAT BLUE / OUTRAGE
and more…
1991
VULGAR DISPLAY OF POWER / PANTERA
ヴァルガー・ディスプレイ・オブ・パワー(邦題:俗悪) / パンテラ
All tracks are written by Pantera.
- “Mouth for War“★ Length:3:57
- “A New Level“★ Length:3:57
- “Walk“★ Length:5:14
- “Fucking Hostile“★ Length:2:48
- “This Love“★ Length:6:32
- “Rise“ Length:4:36
- “No Good (Attack the Radical)“ Length:4:49
- “Live in a Hole“ Length:5:00
- “Regular People (Conceit)“ Length:5:27
- “By Demons Be Driven“ Length:4:40
- “Hollow“★ Length:5:48
- Personnel
- Phil Anselmo – vocals
- Diamond Darrell – guitars
- Rex Brown – bass
- Vinnie Paul – drums
「★」は筆者オススメ・トラック
伝説的アルバムの6thまで来ました。
このアルバムが発表される事には、すっかりお馴染みの「パンテラ像」に至っていますね(全員恐そう)。
彼等がこのスタイルで有名になる以前は、メタル界においてスキン・ヘッドのヴォーカリストは殆ど存在していませんでしたし、その他メンバーのようなストリート系のファッションで演奏する事もまだメイン・ストリームのバンドでは珍しい事でした。
プロデュースは前作から引き続きテリー・デイトを起用、次回作、次々回作と合計4枚のアルバムでタッグを組みますが、正に1990年代パンテラの音を作った功労者と言えるでしょう。
アルバム制作当初は「02.」「07.」「09.」の曲だけがデモとして完成しており、残りはスタジオでのアルバム制作時に作られていったのだとか。
このアルバムは、ビルボード200「アルバム・チャート」では最高44位に到達、実に79週間に渡ってチャート・インし続けた、モンスター・アルバムです(アメリカだけで210万枚超:ダブル・プラチナムの売上)。
後の雑誌やwebサイトなどで1990年代を振り返る際には必ず最重要バンドとしてピックアップされ、この6thアルバムも10位前後には必ずランク・インしますね。
アルバムの内容でいうと、もう「01.」から「05.」までの畳みかけるような流れが完っ璧で、メタル・リスナー全員が死ぬ迄に絶対一度は聴くべきアルバムと言えるでしょう。
ギターのサウンドは前作から大きく変わる事はありませんでしたが、リフのアイデアはより幅を広げ、重たくハネるリズムは、更に洗練されています。
特にギター・ソロではこれぞダレルと言えるような、煽情的でありながら時として冷たい機械のような鋭さを持ったプレイを、随所で聴く事が出来ます。
「03.」のギター・ソロは特に独創性に溢れており、一度聴いたら忘れられないフレージングです。
またアルバムを締めくくるバラード曲「11.」が名曲でして、もの悲しくも美しいメロディ・ライン、胸を打つ熱いギター・ソロは、思わず涙腺を刺激されてしまう程です。
ドラム・サウンドはよりアタック音と粒立ちを強調する方向に向かっており、後に様々なバンドから発表される1990年代のアルバムが次々とこの音色に塗り替えられていきます(ザックリ言って概ね1999年のスリップノット登場まで続くトレンドです)。
フィルがハイトーンの歌唱、シャウトを捨て、ハード・コア的なスクリームを主体としたヴォーカル・スタイルに変更した事も、大きな特徴の一つです。
メタルの構築美を持ちながらハード・コア的な荒々しさを同居させる事自体はそれ迄行われていなかったワケではありませんでしたが、どちらかの要素に傾いてしまう事が多かった一方で、パンテラは「混ぜて新しい形を作り出す事」に成功したワケです(言葉にすると陳腐ですが)。
NU-METAL、LAP METAL、Metalcore、などの発展に大きく貢献したのは間違いありません。
この頃から、あのメタリカでさえセルフ・タイトルの5thアルバムでヘヴィ路線を打ち出し、更にはグランジという潮流も生まれ、世界的に「伝統的なヘヴィ・メタル」は絶滅の危機に瀕していく事になります。
しかしパンテラのメンバー達は、「自分達は本物のヘヴィ・メタル・バンドだ」と公言していたのが何とも印象深いですね。
- NOTHINGS SACRED / LÄÄZ ROCKIT
- CONTRADICITIONS COLLAPSE / MESHUGGAH
- METALLICA / METALLICA
- OUT OF ORDER / NUCLEAR ASSAULT
- HORRORSCOPE / OVERKILL
- ARISE / SEPULTURA
- THE FINAL DAY / OUTRAGE
and more…
1994
FAR BEYOND DRIVEN / PANTERA
ファー・ビヨンド・ドリヴン(邦題:悩殺) / パンテラ
All tracks are written by Dimebag Darrell, Vinnie Paul, Phil Anselmo and Rex Brown except where noted.
- “Strength Beyond Strength“ Length:3:38
- “Becoming“★ Length:3:05
- “5 Minutes Alone“★ Length:5:47
- “I’m Broken“★ Length:4:24
- “Good Friends and a Bottle of Pills“ Length:2:52
- “Hard Lines, Sunken Cheeks“ Length:7:01
- “Slaughtered“★ Length:3:56
- “25 Years“ Length:6:05
- “Shedding Skin“ Length:5:36
- “Use My Third Arm“★ Length:4:51
- “Throes of Rejection“ Length:5:01
- “Planet Caravan" (Black Sabbath cover) Writer(s):Geezer Butler, Tony Iommi, Ozzy Osbourne, Bill Ward / Length:4:03
- Personnel
- Phil Anselmo – vocals
- Dimebag Darrell – guitars
- Rex Brown – bass
- Vinnie Paul – drums
「★」は筆者オススメ・トラック
本作では遂にビルボード200で1位に到達し29週間このチャートに居座り続け、各国ではつぎつぎとプラチナム・ディスクを獲得していきました。
前作の世界的大ヒットを受けて3年後に発表された7thでは、よりハード・コアのスタイルに接近した楽曲が増えています。
C#までダウン・チューニングされた楽曲が殆どでより重たいサウンドやリフが増え、当時のヒット・アルバムとしてはかなり異質な出来事でした。
ギター・ソロは変わらず魅力的で攻撃的ですが、バッキング・ギターのダブリングを排する等、より生々しい音作りが意図的であり、実際にライヴで演奏する時の状態を優先しているようにも聞こえます。
ブレイク・ダウン・パートがあったりシンガロング必至のサビ(スクリーム)があったりと、後のメタルコアに繋がる様式もこの時点で概ね出そろった感があり、今聴いても時代を先取りしまくりの内容です。
「10.」あたりはストーナー・メタル的なイメージもありますね(音楽性のレンジがとにかく広い)。
歌詞は、宗教的な内容を扱ったり社会性のあるシリアスなものがある一方で、メンバーの心理状態を語る内省的なものも増えており、楽曲制作に対するスタンスが「内面の怒りを掘り下げる方向」に加速していきます。
また、アルバム発表時点で、フィル・アンセルモは背中の椎間板ヘルニアがかなり悪化しており、椎間板変性症による慢性的な痛みに苦しんでいました(「04.」はフィルのこの苦しみを歌ったもの)。
大量の飲酒、鎮痛剤や筋弛緩剤を乱用し、この頃より痛みから逃れる為にヘロインの使用頻度があがり、後々バンド内の人間関係に影響を及ぼし始める事になります。
あと細かいところで言うと、ダレルのクレジット表記が「ダイヤモンド・ダレル」から「ダイムバック・ダレル」に変更されたのも本作からでしたね。
- BURN MY EYES / MACHINE HEAD
- YOUTHANASIA / MEGADETH
- POINT BLANK / NAILBOMB
- W.F.O. / OVERKILL
- DEVINE INTERVENTION / SLAYER
- GET WHAT YOU DESERVE / SODOM
- LOW / TESTAMENT
and more…
1996
THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL / PANTERA
ザ・グレート・サウザン・トレンドキル(邦題:鎌首) / パンテラ
All tracks are written by PANTERA
- “The Great Southern Trendkill“ Length:3:47
- “War Nerve“ Length:4:53
- “Drag the Waters“ Length:4:55
- “10’s“ Length:4:49
- “13 Steps to Nowhere“★ Length:3:37
- “Suicide Note Pt. I“ Length:4:44
- “Suicide Note Pt. II“ Length:4:19
- “Living Through Me (Hells’ Wrath)“ Length:4:50
- “Floods“★ Length:6:59
- “The Underground in America“ Length:4:33
- “(Reprise) Sandblasted Skin“ Length:5:39
- Personnel
- Phil Anselmo – lead vocals, backing vocals
- Dimebag Darrell – lead guitar, rhythm guitar, backing vocals; 12 string acoustic guitar on “Suicide Note Pt. I"
- Rex Brown – bass, backing vocals
- Vinnie Paul – drums, backing vocals
- Additional musicians
- Seth Putnam – additional vocals on “The Great Southern Trendkill", “War Nerve", “13 Steps to Nowhere", and “Suicide Note Pt. II"
- Ross Karpelman – keyboards on “Suicide Note Pt. I" and “Living Through Me (Hells’ Wrath)"
「★」は筆者オススメ・トラック
前作発表から今作8th制作の間、ファイルは長年の激しいパフォーマンスにより身体に多くの課題を抱えていましたが、その苦痛を和らげる目的でアルコールの過剰摂取や薬物の過剰摂取が続き、いよいよライヴ・パフォーマンスにも影響が出始め、ステージ上での人種差別に関する過激な発言が取り沙汰されるようになります。
そうした事からバンド・メンバーとの関係も緩やかに悪化し始めます。
フィルは1995年にサイドプロジェクト「DOWN(ダウン)」を立ち上げデビュー・アルバム「NORA」を発表、ビルボード200で最高55位をマークします。
その後パンテラとしてのアルバム制作に移るものの、フィルはニュー・オリンズにあるトレント・レズナーのスタジオにて単独でレコーディングし、残り3人のメンバーはダラスでアルバム制作を続け、フィルとバンドの溝は明らかに拡大していました。
前作、前々作ではそれぞれ3曲以上のPVが制作されていましたが、本作では「03.」のみです。
ビルボード200チャートでは4位に達し、16週間チャートにとどまりました。
アルバムの作風としては、彼等の作品中最も激しく攻撃的な内容になっており、スクリームが最も多用されているのが特徴の一つですが、楽曲の構成については新たな試み、実験的施策が見られ、複雑な曲構成も増えました。
「10.」「11.」では遂にドロップGまでダウン・チューニングしたギターを使用していますが、この時点で既にこうしたサウンドに着手していたダレルの先見性には驚くばかりです(後のデスコアやジェントへの影響)。
「07.」のような大作バラードもこのアルバムのハイライトの一つでしょう。
アコースティック・ギターの切ないな響きに加えて、素晴らしく煽情的なギター・ソロを聴く事が出来ますが、このソロはファンの間でも特に人気を集めています(このソロもバッキング・ギターは最小限に抑えられている)。
こうした中、次回作がパンテラ最後のアルバムとなってしまうわけです。
- DONOR / CEMMENT
- BEAT THE BASTARDS / THE EXPLOITED
- OVERNIHGHT SENSATION / MOTORHEAD
- THE KILLING KIND / OVERKILL
and more…
2000
REINVENTING THE STEEL / PANTERA
レインヴェンティング・ザ・スティール(邦題:激鉄) / パンテラ
All tracks are written by PANTERA
- “Hellbound“ Length:2:41
- “Goddamn Electric“★ Length:4:56
- “Yesterday Don’t Mean Shit“ Length:4:19
- “You’ve Got to Belong to It“ Length:4:13
- “Revolution Is My Name“ Length:5:15
- “Death Rattle“★ Length:3:17
- “We’ll Grind That Axe for a Long Time“ Length:3:44
- “Uplift“ Length:3:45
- “It Makes Them Disappear“ Length:6:21
- “I’ll Cast a Shadow“ Length:5:22
- Personnel
- Phil Anselmo – vocals
- Dimebag Darrell – guitars
- Rex Brown – bass
- Vinnie Paul – drums
- Additional musicians
- Kerry King – outro guitar on “Goddamn Electric"
「★」は筆者オススメ・トラック
9作目にしてパンテラ最後のアルバムである本作は2000年03月21日に発表されました。
楽曲の完成度は過去作品の集大成とも言える内容になっておりダレルのギターが冴え渡った仕上がりで、リフのアイデアはここに来てオリジナリティが全く揺らいでおらず、ワーミー・ペダル(ピッチ・シフト)を使う独特のリフ・ワークにもキレがあります。
前作に比べると、フィルが「歌う」パートが増え、ドラマチックなハーモニーを聴く事が出来る曲もあり、音楽的には変わらぬチャンレジ精神に溢れていますね(そこがこのバンドの一番凄いトコロだと筆者は思う)。
アルバム発表後は様々なツアーをこなし、2001年8月26日ラウド・パークの前身フェス「Beast Feast 2001」にスレイヤーとのダブル・ヘッドライナーとして来日しますが、このステージがパンテラとしてのラスト・ライヴとなってしまいます。
翌年2002年にはフィルがサイド・プロジェクトでの活動を再開し同年03月26日にダウンの2ndアルバム「Down II: A Bustle in Your Hedgerow」を発表、また同年05月21日には新バンド「スーパー・ジョイント・リチュアル」の1stアルバム「Use Once and Destroy」を立て続けに発表します(これらのアルバムは素晴らしいのでおってエントリを書きます)。
こうした中、フィルのパンテラ復帰を待っていたアボット兄弟でしたがその甲斐なく、2003年11月正式にパンテラ解散をアナウンスします。
その後ファイルとアボット兄弟の間ではメディアを通じた舌戦が泥沼化していきますが(ファンとしてものすごく悲しかった記憶があります)、解散後2004年のタイミングで6th「ヴァルガー~」はダブル・プラチナムを、8th「グレート~」はプラチナムを達成します。
因みに「02.」のアウトロで、叫び声のようなギターのエフェクトを追加しているのは、スレイヤーのケリー・キングです。
- ALL HELL BREAKS LOOSE / DESTRUCTION
- SLAUGHTERCULT / EXHUMED
- WE ARE MOTÖRHEAD / MOTÖRHEAD
- BLOODLETTING / OVERKILL
- REINVENTING THE STEEL / PANTERA
- VIOLENT / VOLCANO
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